「企業の在庫急増」について考える
日本経済新聞は1月16日に、企業の在庫が急激に増加していることに関する記事をかなり大きく掲載しました。出荷の停滞局面で、本来ならば在庫圧縮に乗り出すはずなのに、在庫増加のペースがむしろ加速していることに注目しています。そして、景気回復ペースが鈍れば、さらに在庫が積みあがり、生産の停滞が長期化して、景気の重荷となる恐れがあると結んでいます。
在庫増加の背景として次のポイントを挙げています。いずれももっともな指摘です。
1.東日本大震災。サプライチェーンの分断に対する備え。
2.「持たざる経営」の行き過ぎを自覚。有事への保険という意識。
3.世界経済の減速と円高。輸出低迷による在庫増加。
4.復興需要を見込んだ建設鋼材などの前倒し生産の影響。
在庫の変動は、言うまでもなく、3-5年程度の景気波動を引き起こすきわめて重要な要因です。そこで、次の在庫循環モメンタムの図をご覧ください。この指標は出荷の変動率から在庫の変動率を差し引いたものです。そこで、細い点線で示した在庫の変動率の推移に注目してください。実は減速こそしていませんが「加速している」というイメージは強くありません。世界経済の減速、欧州債務危機、円高などの厳しい重荷を考慮すれば、在庫の動きはむしろ安定していると見ることもできそうです。
しかし、部門別に見れば在庫の急増は確かに鮮明に見ることができます。日本経済新聞の指摘の通り、復興需要を見込んだ建設鋼材など建設財の在庫急増が目を引きます。再び細い点線で示した在庫の動きに注目願います。
もう一つ忘れてならないのは、食品、衣料品などの非耐久消費財の在庫の急増です。ただし、これは在庫の急増というより、震災後に払底してしまった在庫が元に戻りつつあるという方が正確だと思われます。物が消えてしまったようなコンビニエンスストアの棚は今も私たちの頭に焼き付いています。
というわけで、在庫の急増は全体としてみれば、適正在庫水準への揺り戻しという側面が強く、必要以上に悲観的に見る必要はないと考えています。建設財の在庫が気になりますが、復興需要は消えてしまったわけではありませんし、復興予算が否決されたわけでもありません。
したがって、出荷の停滞の中で、生産調整による在庫圧縮の動きが見えないことは、適正在庫水準の見直しに伴う過渡的な現象である可能性が高いと考えています。
となれば、今後復興需要が本格的に出てくると、在庫調整を経ないままに、景気の回復感が急速に強まってくる可能性もありますので、推移を注視しようと考えています。
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